2021年 10月 31日
LA BANLIEUE DE PARIS / Blaise Cendrars, Robert Doisneau |


19世紀末、地方回りの役者断念しパリに移り、それから写真を撮り始め、モンパルナスの住まいに「芸術家のための資料」という看板を掲げ、パリとその周辺の町を撮り続けた写真家ウジェーヌ・アジェ (Eugene Atget)。
消え去ろうとするパリの19世紀的な風物や建物を記録した「古き良きパリ」のアジェは、並行してパリ郊外の町も数多く撮影している。それら郊外の写真のなかでも興味深い写真のひとつとして城砦都市だったパリの名残りとなっていた城壁跡や「ゾーン」を撮影したものがあげられる。「ゾーン」とは軍事目的で19世紀に建設されたティエール城壁の外側の幅15メートルの堀からさらに外側200メートル以内の建築禁止地域で、後にその地域には不法にパリの都市生活に寄生する人々や怪しげな下層民が住み着いた。
上の写真はアジェが1901年にパリの南郊外の城壁近くの町ジャンティイに流れるピエーブル川を撮影した写真。アジェが没した後、アジェの写真に魅了されていたアメリカ人写真家ベレニス・アボットと資金を援助した画商ジュリアン・レヴィによってアジェの遺産管財人から一括購入されたガラス乾板、プリントなどをもとに、ニューヨーク近代美術館が数年にわたり全4巻として上梓した『THE WORK OF ATGET』に収録されている。アジェは「古き良きパリ」の徹底した撮影だけでなく、「パリ」と「パリ郊外」という内と外の存在に気づき、パリの城壁やゾーン、郊外の町も数多く撮影しているのだ。
パリが愛した写真家(映画のタイトルから拝借)ロベール・ドアノー (Robert Doisneau) は1912年にジャンティイで生まれている。ドアノーの記憶によると、子供時代のジャンティイを流れるピエーブル川は、ディジョンのマスタードを作っていた工場からヴィネガーのきついにおいが漂い、ねっとりした川の水は、なめし革工場の排水による悪臭を放っていたそうだ。それでも何かの発見に期待してこわごわとそこをのぞきに行ったと語っている。
大人になったロベール・ドアノーはアジェが撮影したピエーブル川の同じ場所に三脚を立ててガラス乾板を暗箱カメラに装填してアジェの撮影を追体験している。
あの有名な恋人たちのキス・シーン『市庁舎前のキス』によって強く印象付けられるロベール・ドアノーは「パリ」の写真家でありながら、むしろ「パリ郊外」の写真家なのだ。
1949, Paris, 51 pages (Text) +135 pages (Photo), 185 x 240 x 20
1949年にパリの出版社ピエール・セゲルスから刊行されたロベール・ドアノーの最初の写真集であり最高傑作でもある『LA BANLIEUE DE PARIS(パリ郊外)』。
共著者は詩人ブレーズ・サンドラール (Blaise Cendrars) 。二人の出会いは1945年。サンドラールが久しぶりに出版した小説『L'HOMME FOUDROYE(雷に打たれた男)』の雑誌広告用にポートレイトの撮影を出版社から依頼されたドアノーが南仏エクサンプロヴァンスにサンドラールの自宅を訪ねた時からはじまる。その時にドアノーがサンドラールに見せたゾーンやパリ郊外の写真が縁となり、サンドラールはパリ郊外についての共著の出版をもちかけたのだ。
すでに数多くの郊外の写真を撮っていたドアノーにサンドラールは足りないと感じたエリアの撮影をドアノーの要請(ドアノーに言わせると彼は私を遠隔操作した)。こうして前半部にサンドラールのテキスト、後半部にドアノーの写真で構成された写真集が完成した。サンドラールのテキストは「南・西・東・北」の4つの方角のテーマから成り、ドアノーの写真は「子供たち・愛・背景・日曜と祝日・余暇・仕事・終点・住まい」の8つのテーマから成っており、最終ページには写真撮影場所などのキャプションが付されている。サンドラールのテキストはパリ郊外の4方向がそれぞれ微妙に異なる表情や性格を見せ、小市民たちの日常や工業地帯で働く労働者の生活、低所得者向けの住まいを持とうとするプチブルのいじましさ、プロレタリアートのあらゆる悲惨さに満ちた地帯など描き出し、時に一人走りもするがドアノーの写真に物語を呼び込んでいる。ドアノーの写真は生まれ育った故郷のなつかしさだけでもなく、郊外の生活の厳しさをドキュメントするわけでもなく、背景に単純な解釈を超える舞台を用意している。そのようなドアノーの深さがブレーズ・サンドラールやジャック・プリヴェール (Jacques Prevert) 、ロベール・ジロー (Robert Giraud)、クレマン・レピディス (Clement Lepidis)、ダニエル・ペナック (Daniel Pennac)、ジャン・ドンゲ (Jean Dongues) ら多くの操觚者を惹きつけているのだろう。
秀逸なジャケットには聳え立つエッフェル塔の下に集合住宅が並び、土手には人々が居並んでいる。ドアノーが自分で「大工仕事」「写真遊び」と呼んでいたフォトモンタージュ作品である。その手法は後に出版されたチェリストのモーリス・バケ (Maurice Baquet) との共著『BALLADE POUR VIOLONCELLE ET CHAMBRE NOIRE』でもいかんなく発揮されている。
本の状態:ジャケットに擦り傷、背部分に小さな穴あり。その他は経年変化程度。
価格:¥132,000
by booksandthings
| 2021-10-31 12:00
| 写真



















