2018年 11月 19日
PIERRE BONNARD THE GRAPHIC ART / Colta Ives, Helen Giambruni, Sasha M. Newman |
近年再発見された写真家ソール・ライター が敬愛する画家のひとりとしても知られている。
巨匠パブロ・ピカソが、当時の伴侶だったフランソワーズ・ジローに語ったとされるピエール・ボナール評が、少々長いが興味深いのでここに引用する。
わたしの好きな色彩画家のひとりボナールをどう考えるか、とわたしはパブロにたずねた。
「ボナールの話はやめてくれ」とかれは言った。「あれは絵画じゃない、かれのやっていることは。かれは自分自身の感覚からまるで脱け出さない。選び方を知らないのだ。ボナールが空を描く場合、かれはおそらくまず青くする、少なくとも、空はそう見えるからね。それからしばらく見つめていると、その中にモーヴ色が見えてくる。そこでかれはモーヴ色を一筆か二筆、ただ垣を作るように加える。それからこんどは、また桃色もあると考え、そうなると桃色もどうしても加えたくなる。結果は不決断の寄せ集めだ。もっと長く見ていたら、かれは空が実際どうあるべきかなどと決定することはせずに、黄色も少し加えることになるだろう。絵画はそんな風にして作られるわけがない。絵画は感覚の問題ではない。自然が知識やよい忠告を与えてくれるのを期待するのではなく、自然から譲り受けて、力を掴み取ることが問題だ。だからわしはマティスが好きだ。マティスはつねに色彩を知的に選択することができる。自然に近かろうが、離れていようが、かれは常に一つの色で完全に平面を満たすことができる。それはただ、その色がキャンヴァスの他の色と調和するからであって、少なくとも現実に感応しているからではない。マティスが空を赤にすべきだと決定したら、実際にカドミウム・レッドにするだろう、その他のには決してしない。そして、他の色の移調の程度を同じレベルにするだろうから、それで立派になるだろう。かれはキャンヴァスの他の要素を、全部じゅうぶんに色調の強いものに置き換えるだろうから、その色調の相互関係は、その最初の赤の強烈さを可能にするのだ。ここに構成の全色域というものがあって、この突飛な色を許すわけだ。ファン・ゴッホはその緊張への鍵を発見した第一人者だった。かれはこう書いた、『わたしは一つの黄色を作り上げようとしています』。たとえば小麦畑を見てごらん。それがほんとうにカドミウム・イエローをしているとは言えないだろう。しかし画家が一旦そういう勝手な色に勝手に決め込んで、自然色にない、その範囲を超えたある一つの色を使うとなると、まず第一に自然の常識から飛び出た色彩と関係を選ぶ。こうして画家は自然から、自由をものにする。こうして画家がするものを、おもしろいものにする。こうしてわしはボナールに反対する。わしはかれに心を動かされたいとは思わない。彼は実際、近代の画家ではない、かれは自然に服従する。自然を超越しない。自然を超越するあのやり方は、マティスの作品で積極的に成就されている。ボナールはただのもう一人の新印象主義者で、デカダントだ。古い考えの終わりで、新しい考えの始まりではない。他の画家と比べて、かれにはいささかの感受性があるという事実は、わしに関する限り、もう一つの欠点にしか過ぎない。その感受性の余分の一滴が、かれを人に嫌われるものにしているのだ」
「もう一つわしがボナールを嫌うのは、連続的な平面にするために、画面全体を少しずつ、1ミリ四方くらいのかすかな震えのようなもので、しかも全体的にコントラストは出さずに、満たしてしまうあのやり方だ。黒と白、四角と円、鋭い点と曲線などの並置はどこもない。有機的な全体のように作り上げられた極度にオーケストラのような表面だが、あの強いコントラストが作る、シンバルのジャンジャン鳴る大きな音は、一つも聞こえてこない」
フランソワーズ・ジローが好きであることに対する嫉妬も加味されているのだろうが随分と嫌ったものだ。
その一方ピエール・ボナールは、というと・・・。
1989, NY, 260 pages, 242 x 280 x 25
油彩画も何点か含まれてはいるものの、デッサンやドローイング、版画、挿絵、ポスター画など、ピエール・ボナールのグラフィック作品に焦点を当て、ニューヨークのメトロポリタン美術館を皮切りに3か所を巡回した展覧会時に刊行された図録『PIERRE BONNARD THE GRAPHIC ART』である。
収録された262点の図版の中に、1946年にブラッサイによって撮影されたボナールのアトリエの写真がある。そのアトリエの壁には、広重やフェルメール、ルノアール、スーラ、ゴーギャンらの絵画の切り抜きと一緒にピカソの作品が・・・。
「絵画にはまったく相応しい公式がある。一つの大きな真実をつくり出すためのたくさんの小さな嘘」- ピエール・ボナール 1945年
本の状態:ソフトカバー。経年変化程度。
価格:SOLD
by booksandthings
| 2018-11-19 12:00
| アート