2014年 10月 13日
KIKI'S MEMOIRS / Kiki, Translated by Samuel Putnam |

「・・・キキが初めて私のアトリエ、と言っても実際はアトリエではなく、私が住んでいた質素なガレージであるが、そこへポーズをとるためにやって来たのは、ずいぶん以前のことだった。彼女は華奢な小さい指を赤い口に当て、誇らしげにお尻を振りながら、全くこっそりと、はにかんで入ってきた。コートを脱ぐと、彼女は真っ裸だった。コートの裏側にピンでとめた強烈な色彩の小さいハンカチだけが、彼女の最後のドレスのような錯覚を与えた。彼女は画架の前の私の場所を占領して、動かないように私に頼んで、私の肖像を描き始めた。仕事が終わったときには、彼女は私の鉛筆をすっかり使い果たし、小さい消しゴムをすりつぶしていた。そして有頂天になって踊ったり、歌ったり、叫んだり、カマンベール・チーズの箱の上を歩いたりした。彼女はモデル代を私に払わせたあと、そのクロッキーを腕に抱えて、意気揚々と出て行った。3分後、≪ドーム≫のカフェで、金持ちのアメリカ人の蒐集家が、途方もない値段でそのクロッキーを買った。この日、彼女と私の二人のうち、どちらが画家だったのか私には遂に分からなかった。・・・・・」
上の文章は、“モンパルナスのキキ” と呼ばれ、エコール・ド・パリの画家たちのモデルとして一世を風靡したブルゴーニュ―生まれの女性キキことアリス・プランの回想記の日本版『モンパルナスのキキ』のために藤田嗣治が序文を寄せたなかの一部分。初版は1929年にパリの出版社 Henri Broca刊行『KIKI: SOUVENIRS』であり、日本版は河盛好蔵によって全訳された。












KIKI'S MEMOIRS / Kiki, Translated by Samuel Putnam
1930, Paris, 181 pages, 183 x 230 x 12
本書は、1929年に刊行された『KIKI SOUVENIRS』の翌年に初版とは別のパリの出版社から刊行された英訳版である。日本語版の序文は藤田嗣治が担当しているが、英語版の紹介文はアーネスト・ヘミングウェイ。その内容は、キキの非常に素直な文章による回想記とキキが描いた20点の絵画、マン・レイによるポートレイト写真、そして藤田嗣治やキスリング、ペル・クローグ、エレミーヌ・ダヴィッド、トノ・サラザーらが描いたキキの肖像画で構成されている。マン・レイは、本書を「ありのままのキキの自画像」と評している。
本の状態:ソフトカバー。本体を包むトレーシングペーパーに破れ、欠けあり。帯に破れ、変色あり。本体の背の上部に破れ、カバーに少し変色、シワが見られる。その他は経年変化程度で概ね良好。
価格:SOLD
by booksandthings
| 2014-10-13 12:00
| ピープル

