2020年 05月 21日
GRAFFITI DE BRASSAI / Brassai |
美術館の中に
場所を要求するにはあまりにも慎ましく侮られた落書きは
けれど充分の力を持っているので居並ぶことだろう
壁の上に
世界中の美術館。
ことば かたちは
壁の上で
単純でいて
力強い明白さを示している。
ことばは再び行為に転じ
そしてイマージュは
魔術の道具になる。
パリの壁で生まれた
あまたの落書きは
私を捉える
ある出来事のように
世界の突如の拡大のように。
固有の生命を授かり
本質に還元されて
骸骨のようにほっそりとして
硬い落書きは、正式の権威によって
しばしば認められる
これは芸術作品だと。
自分の名を 愛を 日付を刻む
建物の壁の上に
この蛮行は只単に
破壊という要求だけでは説明され得ない
むしろそこに見るのは死後の生への本能
後世に名を残すために
ピラミッドやカテドラルを
建てられなかった全ての人々の。
壁はひとつの挑戦として聳え立つ
土地の防護者や
秩序の擁護者に対して。
壁は受け入れる、講義を、侮辱を、要求を
そしてあらゆる政治的、性的、社会的情熱を。
たった三つか四つの句点や読点で出来ている
仮面や顔だが
それは無数の表情を見せる
これらの記号の
位置や向きにしたがって
それは陽気にも
深刻にも
グロテスクにも
陰険にもなるのだ。
飽くことを知らない好奇心が見開いた
この眼
この幻覚者のまなざしは
単に子供時代の眼ではないだろう
それらはまた「壁の眼」「壁のまなざし」
これらすべての顔が「壁の顔」であるように
そしてこれらすべての心臓が「壁の心臓」であるように
ここではすべてが
素材に応じて生まれる
あたかもそれによって予め決められていたかのように。
壁が与えるのだ
あらゆる落書きに
スタイルの統一や
よく似た雰囲気
あたかもたった一人の手から生まれたかのような。
原始の人々のごとく
恋人たちは考える
心臓の絵に働きかければ
それは自分の恋人の
心臓そのものに触れること。
心臓は表現できる
幸福を
苦悩を
おそれを
希望を
欲望の本質を
造形的 詩的な発明が 相伴う。
落書き芸術はまた
魔術を
たっぷり吸い込んでいる。
それらの記号や
それらの象徴
それらの形象は
漠たる不安やおそれを抱く世界を払いのける。
昼の光の中に
壁が解き放ち、浮上させる
どん底の奇妙な牧神たち
悪魔や魔王
さらには魔術師たちよりも
もっと愛らしい性格の
妖精や
サチュロス
牧神たちのような
何か架空の存在たちのため。
我らの目には見えぬ地獄にいる
奇妙な住人の全てに対し
壁は与える
一つの顔を。
壁は
「知恵遅れ」の
「不適格者」の
「反抗する者」の
「素朴な人々」の
「粗野な者」全てのものなのだ
壁は、秘密の野外学校の黒板。
壁、
禁忌の隠れ家は
もし壁なくば沈黙を課せられるであろう全てに
ことばを与える。
悪の烙印を捺された
エロティシズムと
ヴァイオレンスは
自由にあふれ出てくる
だがタブーに触れ
それを犯すという不安は
我々に警告してはいないか
壁が
何か神聖なものを守ったのだと。
壁は悪魔祓いをし
浄め
抑圧されている全てから
圧迫する全てを開放する。
- ブラッサイ (Brassai)
ハンガリー人の写真家ブラッサイの “落書き(Graffiti)” についての詩である。
夜のパリを彷徨い、1932年にポール・モラン (Paul Morand) のテキストで刊行された歴史的名作写真集『PARIS DE NUIT』が代表作としてよく知られている。
ブラッサイは夜を彷徨い、街の蠢きを撮影する傍ら、街の落書きの撮影にも年月を費やした “落書きマニア”でもあった。落書きと言っても様々だが、ブラッサイが重視したものは、今日のようなスプレーやペンキで描かれたものではなく彫られた(刻まれた)、搔き絵の落書きである。
街に存在する無数のくだらない落書きから撮るに値する落書きを長い年月(30年間)をかけて撮影し続け、1960年にシュトゥットガルト、1961年にパリで写真集『GRAFFITI DE BRASSAI』が刊行された。













GRAFFITI DE BRASSAI / Brassai
1961, Paris, 105 plates, 233 x 286 x 15
小さな手帳を持ち歩き、撮影した落書きの場所と形態をひとつひとつメモしていたというブラッサイが編集した『落書き』の写真集は、「壁の提案」「壁のことば」「人類の誕生」「仮面と顔」「動物」「愛」「死」「魔術」「プリミティヴなイマージュ」の9章に分類され、加えて1945年と1946年にピカソが落書きについて語った内容が収録されている。
ブラッサイにとって、落書きの中で特に感動的なのは、地面から1メートルに満たない低層に描かれたものだそうだ。そこでは3歳くらいから7歳ぐらいまでの子供時代という“古代”が世界に対して最初の作用を及ぼしているからだと語っている。このような深い省察によって撮影された落書きの写真の数々は、ピカソを始めとする同時代の画家ブラック、クレー、ミロ、デュビュッフェ、文学者ジャック・プレヴェール、ヘンリー・ミラー、ジャック・ラカンらの文学者、詩人・画家のアンリ・ミショーらに驚きを持って迎えられた。
本の状態:ジャケットに擦れ、縁部分にシワ、小キズあり。
価格:¥66,000
場所を要求するにはあまりにも慎ましく侮られた落書きは
けれど充分の力を持っているので居並ぶことだろう
壁の上に
世界中の美術館。
ことば かたちは
壁の上で
単純でいて
力強い明白さを示している。
ことばは再び行為に転じ
そしてイマージュは
魔術の道具になる。
パリの壁で生まれた
あまたの落書きは
私を捉える
ある出来事のように
世界の突如の拡大のように。
固有の生命を授かり
本質に還元されて
骸骨のようにほっそりとして
硬い落書きは、正式の権威によって
しばしば認められる
これは芸術作品だと。
自分の名を 愛を 日付を刻む
建物の壁の上に
この蛮行は只単に
破壊という要求だけでは説明され得ない
むしろそこに見るのは死後の生への本能
後世に名を残すために
ピラミッドやカテドラルを
建てられなかった全ての人々の。
壁はひとつの挑戦として聳え立つ
土地の防護者や
秩序の擁護者に対して。
壁は受け入れる、講義を、侮辱を、要求を
そしてあらゆる政治的、性的、社会的情熱を。
たった三つか四つの句点や読点で出来ている
仮面や顔だが
それは無数の表情を見せる
これらの記号の
位置や向きにしたがって
それは陽気にも
深刻にも
グロテスクにも
陰険にもなるのだ。
飽くことを知らない好奇心が見開いた
この眼
この幻覚者のまなざしは
単に子供時代の眼ではないだろう
それらはまた「壁の眼」「壁のまなざし」
これらすべての顔が「壁の顔」であるように
そしてこれらすべての心臓が「壁の心臓」であるように
ここではすべてが
素材に応じて生まれる
あたかもそれによって予め決められていたかのように。
壁が与えるのだ
あらゆる落書きに
スタイルの統一や
よく似た雰囲気
あたかもたった一人の手から生まれたかのような。
原始の人々のごとく
恋人たちは考える
心臓の絵に働きかければ
それは自分の恋人の
心臓そのものに触れること。
心臓は表現できる
幸福を
苦悩を
おそれを
希望を
欲望の本質を
造形的 詩的な発明が 相伴う。
落書き芸術はまた
魔術を
たっぷり吸い込んでいる。
それらの記号や
それらの象徴
それらの形象は
漠たる不安やおそれを抱く世界を払いのける。
昼の光の中に
壁が解き放ち、浮上させる
どん底の奇妙な牧神たち
悪魔や魔王
さらには魔術師たちよりも
もっと愛らしい性格の
妖精や
サチュロス
牧神たちのような
何か架空の存在たちのため。
我らの目には見えぬ地獄にいる
奇妙な住人の全てに対し
壁は与える
一つの顔を。
壁は
「知恵遅れ」の
「不適格者」の
「反抗する者」の
「素朴な人々」の
「粗野な者」全てのものなのだ
壁は、秘密の野外学校の黒板。
壁、
禁忌の隠れ家は
もし壁なくば沈黙を課せられるであろう全てに
ことばを与える。
悪の烙印を捺された
エロティシズムと
ヴァイオレンスは
自由にあふれ出てくる
だがタブーに触れ
それを犯すという不安は
我々に警告してはいないか
壁が
何か神聖なものを守ったのだと。
壁は悪魔祓いをし
浄め
抑圧されている全てから
圧迫する全てを開放する。
- ブラッサイ (Brassai)
ハンガリー人の写真家ブラッサイの “落書き(Graffiti)” についての詩である。
夜のパリを彷徨い、1932年にポール・モラン (Paul Morand) のテキストで刊行された歴史的名作写真集『PARIS DE NUIT』が代表作としてよく知られている。
ブラッサイは夜を彷徨い、街の蠢きを撮影する傍ら、街の落書きの撮影にも年月を費やした “落書きマニア”でもあった。落書きと言っても様々だが、ブラッサイが重視したものは、今日のようなスプレーやペンキで描かれたものではなく彫られた(刻まれた)、搔き絵の落書きである。
街に存在する無数のくだらない落書きから撮るに値する落書きを長い年月(30年間)をかけて撮影し続け、1960年にシュトゥットガルト、1961年にパリで写真集『GRAFFITI DE BRASSAI』が刊行された。













GRAFFITI DE BRASSAI / Brassai
1961, Paris, 105 plates, 233 x 286 x 15
小さな手帳を持ち歩き、撮影した落書きの場所と形態をひとつひとつメモしていたというブラッサイが編集した『落書き』の写真集は、「壁の提案」「壁のことば」「人類の誕生」「仮面と顔」「動物」「愛」「死」「魔術」「プリミティヴなイマージュ」の9章に分類され、加えて1945年と1946年にピカソが落書きについて語った内容が収録されている。
ブラッサイにとって、落書きの中で特に感動的なのは、地面から1メートルに満たない低層に描かれたものだそうだ。そこでは3歳くらいから7歳ぐらいまでの子供時代という“古代”が世界に対して最初の作用を及ぼしているからだと語っている。このような深い省察によって撮影された落書きの写真の数々は、ピカソを始めとする同時代の画家ブラック、クレー、ミロ、デュビュッフェ、文学者ジャック・プレヴェール、ヘンリー・ミラー、ジャック・ラカンらの文学者、詩人・画家のアンリ・ミショーらに驚きを持って迎えられた。
本の状態:ジャケットに擦れ、縁部分にシワ、小キズあり。
価格:¥66,000
by booksandthings
| 2020-05-21 12:00
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