2011年 12月 09日
DIANE ARBUS / Doon Arbus |

「色々なクリスマス・ツリーの画像を見たいのだがそのようなものをまとめた本はないだろうか?」との依頼があった。まとめた本ということであれば、ツリーのデコレーション集のようなものであれば出版されているとは思うがそのような本は手元にはなく、また子供向けのクリスマスの絵本もない。
「はて、ツリーの写真?」とすぐに思い浮かんだのは上の写真とハンフリー・ボガードとローレン・バコールが自宅の居間で撮影された撮影者は思い出せないが比較的有名な写真、確か居間にはクリスマス・ツリーがあったと記憶しているものだけだった。
人気のない、あえて人の気配を排除したような居間の角にある大きな飾り付けをしたクリスマス・ツリー。タイトルは“Xmas tree in a living room in Levittown, L.I. 1963” 。撮影者はDiane Arbus 。1960年代後半、美術界は理想主義と反逆精神を失い、芸術はビッグ・ビジネスになりさがっていたが、例外的に経済的利益や自己宣伝を顧慮することなく、厳しい反逆者の立場を貫いていると見られていたのが写真家ロバート・フランク、そしてこのダイアン・アーバスだった。加えてダイアン・アーバースの自殺はより一層彼女を神格化させた。
スーザン・ソンダクは著書の中で、彼女の自殺は彼女の作品が誠実なものであって覗き趣味ではなく、またいたわりのあるものであって冷たいものではないことを保証しているようにも見える。彼女の自殺はまた、その写真が彼女にとって危険なものであったことを証明するかのように、その写真を一層恐ろしいものにしているようだと記している。
彼女の写真は自殺したとき、写真関係者の間ではすでに有名になっていたが、その後1972年にニューヨーク近代美術館で開催された回顧展で一気にその存在が明らかにされた。この写真展は1955年にエドワード・スタイケンが組織した「The Family of Man」展が開催されて以降17年間なかった観客を動員したことは良く知られている。簡単に美と醜に分けると、一般的に見て醜の世界にアーバスが惹かれた作品を数多くの人が目にしたことになる。
展覧会時に出版された写真集には4枚だけポートレイト以外の写真が収められている。夜のディズニーランド、ホテルの壁面、ハリウッドの建物のセット、そしてこのクリマスツリーのある居間である。










DIANE ARBUS / Doon Arbus
1972, NY, 230 x 280 x 13, First edition, First printing, Paperback ed.
ダイアン・アーバスの作品にはモデルに対してリリース(発表許可)を取り付けなければならないという問題があり、ほとんどのモデルからリリースが取れなかったそうである。当然ポートレイトを撮るわけであるから事前に許可を得て撮影するのであるが、その写真を見て許可を出さないモデルが多かったことが想像できる。ただ、彼女の死後は「本人が死んでしまっていてはどうしようない。」と考えたらしく、回顧展でこのように広範囲に展示することが可能になったそうだ。
このソフトカバー初版の第1刷にのみ収録されているセントラルパークで撮影されたお揃いのレインコートを着た若い女性二人の写真 “Two girls in indentical raincoats, Central Park, NYC 1969” は2刷目からは削除されている。見切り発車というよりも、アーバスの死後、撮影されたモデルを探すこと自体苦労を要する中で生じたリリースの問題であろうことは想像できる。
本の状態:ソフトカバー。カバーに経年による変色、擦れによる多少の汚れ、後側に折れ目、背部分にシワあり。小口に小さな汚れ。見返しに前所有者のギフトの記述あり(7センチ×5センチ)。内部ページの4枚(8ページ)下部に2.5センチ程度の破れあり(写真図版には影響はない)。
価格:SOLD
リリースはすべてのモデルと問題になったわけではない。
回顧展以前にニューヨーク近代美術館で開催されたダイアン・アーバス、ゲーリー・ウィノグランド、リー・フリードランダーによる “ニュー・ドキュメンツ”展では、ダイアン・アーバスが会期中に偶然乗り合わせたタクシーの運転手がカメラを提げたアーバスに「お客さん、カメラマンかい?」と聞き、「近代美術館の写真展をのぞいたら、なんと、この俺の等身大の写真が壁にかかっていたんだ。俺の写真だぜ!感激したね!誰が撮ったのか知りたいもんだな。礼を言いたいところだよ。」と話した運転手から「撮ったのは私よ。」と答え、リリースを取ったエピソードもある。そのモデルは衿に “ハノイを爆撃せよ”のバッジを付けベトナム戦争支持派のデモに参加する予定の一見ひたむきそうな若者だった。

ダイアン・アーバスには娘が二人いる。長女はこの写真集を編集したDoon Arbus、そして次女が後に写真家となるArmy Arbus。
下のオリジナル・プリントは“ニュー・ドキュメンツ”展に共に参加した写真家リー・フリードランダーが撮影したものである。
大半のポートレイトではモデルの視線をカメラに向けたものを撮影するアーバスであるが、このフリードランダーが撮った写真は娘のエイミーだけがカメラ目線で、アーバスは何か他のものを見つめている。




AMY AND DIANE ARBUS, NEW YORK CITY, 1963 / Lee Frielander
価格等詳細はメールにてお尋ね下さい。
by booksandthings
| 2011-12-09 12:00
| 写真集 作家別作品集