2017年 10月 05日
PLEASE BUY MY NEW SONG / Jindrich Marco |
ロバート・フランクの『COME AGAIN』やエド・ファン・デル・エルスケンの『SWEET LIFE』もそうだ。
そしてここに紹介するチェコのフォトジャーナリスト、インジィッヒ・マルコ (Jindrich Marco) の傑作写真集『PLEASE BUY MY NEW SONG』も同様にタイトルが振るっている。
PLEASE BUY MY NEW SONG / Jindrich Marco
1967, Prague, 82 plates, 263 x 305 x 17
1948年、第二次世界大戦の疲労の余波が続くロンドンで撮影された負傷したひとりの男が差し出したプレートに書かれた文字「PLEASE BUY MY NEW SONG」をタイトルとした Jindrich Marco の写真集である。
1941年に写真家としてキャリアをスタートしたプラハ生まれの Jindrich Marco は、第二次世界大戦中の一時期オポーレ(ポーランド)の収容所に送られたものの逃亡し、終戦後はプラハを拠点に Black Star や PIX などいくつかの写真エージェントと協力し、1945年から48年にかけてプラハやベルリン、ドレスデン、ワルシャワ、ブダペスト、ロンドンなどの都市を回り、戦争の蛮行の象徴である荒れた街並み、直接的には戦争の責任者では決してない、傷みや苦しみ、屈辱、疲労、恐れ、捨て鉢な気持ちを抱えた一般の人々を見事にカメラに収めている。しかしそれらの写真のいくつかはハイパーインフレの最中、プラハの週刊誌『Svet v obrazech (World in Pictures)』などには掲載されたが、世界的に影響力のある写真雑誌『LIFE』や『PARIS MATCH』『BRITISH PICTURE POST』『LILLIPUT』などには掲載されなかったこともあり、その作品は広く知られることはなかった。1948年にチェコスロバキアで共産党政権が誕生したことにより Jindrich Marco の活動にも影響が及び1950年にはでっち上げにより逮捕され、ヤーヒモフのウラン採掘場で強制労働に従事させられている。労働から解放されてからは、いくつかの出版物の写真を手掛けるなどするが、1945年から1948年にかけて撮影した戦争の傷跡が漂う都市の作品群に勝るものではなかった。
1955年にニューヨーク近代美術館で開催された写真展『THE FAMILY OF MAN』は、その後世界を巡回し大成功をおさめ、その後類似のヒューマニズムに焦点を当てた展覧会や作品を産むこととなった。本書『PLEASE BUY MY NEW SONG』は、その影響を受け、延長線上にあるものではなく、作者曰く広範囲な潮流の中の単なる新しい寄与にすぎないと表現した1冊である。撮影から20年後にようやくアーカイブから選び出された写真には、かつての堂々とした建物が破壊され、大量の瓦礫が堆積した街、そこで生きる人々の姿がある。戦争の蛮行を有効に表す戦闘シーンはほぼない。それゆえに蛮行に雄弁でもある。そして人々は精神的にも肉体的にも切断され不毛の状態に落としこまれながらも、生きるためにもがく力は失ってはいない。後半部には、1948年の中東戦争下に撮影されたユダヤ人移民の姿を捉えた写真を収録。第二次世界大戦をテーマとしたチェコの写真集において、Zdenka Tmeje の 『ABECEDA DUSEVNIHO PRAZDNA (THE ALPHABET OF SPIRITUAL EMPTINESS)』と比肩する写真集であろう。
本の状態:ジャケットに破れ、欠け、シワあり。クロス装の本体は経年変化程度。
価格:SOLD
サイン入り。Signed copy.
価格:¥88,000 (2020/4/24 UPDATED)
by booksandthings
| 2017-10-05 12:00
| 写真