PARIS / Fritz Henle (Photos), Elliot Paul (Text) |
のどかな光景というものがある。
あまり釣れそうもない川や大きな水溜り(湖や池のこと)に糸を垂らしている釣り人の姿がそうだ。その光景は、少なくともその時が平和であることを意味してもいる。上の写真は、アメリカに移住していたドイツ人写真家フリッツ・ヘンル (Fritz Henle) が1938年7月にパリを訪れ、セーヌ川でボートを浮かべて釣りをしている人を撮影した1枚。第三共和政下のセーヌ川には釣りの光景がよく似合う(グジョンと呼ばれるウグイに似た魚が大量に釣れることがあり、丸ごとフライにすると美味だとヘミングウエイも著作『移動祝祭日』に書いている)。そしてセーヌ川ではなんと猫も釣りをするのだ。セーヌ川沿いサン=ミッシェル通りとユシェット通りとの間をぬける通りとして「釣りをする猫通り (Rue du Chat-qui-Peche)」なる小道があることはパリに精通していなくとも知っている人は知っている。
PARIS / Fritz Henle (Photos), Elliot Paul (Text)
1947, Chicago, Unpaged (60 plates), 235 x 312 x 13, Signed by the photographer
「1920年代半ばには、フランスは実際は戦争に勝ったのではないこと、どの国も勝者ではないことに、ユシェット通りの人々は気がつきはじめた。」
- Elliot Paul 『LAST TIME I SAW PARIS (1942)』
1923年から約18年間、多少の出入りはあるもののパリの庶民的な通りのひとつユシェット通り (Rue de la Huchette) の住人としてパリを、そしてフランスを見たアメリカ人新聞記者エリオット・ポールが、その通りに住む十人十色の人達の生活を交えながら、両大戦間のパリの様子を見事に描写した著作『LAST TIME I SAW PARIS』。
その刊行から5年後、今度は「平和だったパリ」を懐かしむように1冊の写真集に文章を寄せる。写真家は、ドイツ人フリッツ・ヘンル (Fritz Henle) 。フリッツ・ヘンルは、1938年に雑誌 LIFE からパリの街の様子 (仮題 Life in Paris) を記事にするために撮影の依頼を受けパリに渡る。小さな心地よいホテルを拠点にフリッツ・ヘンルは、街を巡り、撮影にいそしんだ。その成果を帰国し、LIFE の編集者に見せたところ、なんと不採用となり、企画はお蔵入り。フリッツ・ヘンルの撮影したパリの写真は、その後事務所のスチール棚に入れられたまま、しばらく顧みられることはなかった。ところが1944年、パリが解放されド・ゴール将軍が凱旋した時期に、The New York Times の写真エディターをしていたマダム・ラザレフ (Mme Lazareff、日刊紙 Paris Soir 発行人の妻であるフランス人。Paris Soir は、ドイツのパリ侵攻後すぐに接収されている)からフリッツ・ヘンルにかつて撮影したパリの写真を見せて欲しいと連絡があり、結果その中の数点が The New York Times 日曜版の The New York Times Magazine の4ページを飾り大好評となる(マダム・ラザレフは、フリッツ・ヘンルが持ち込み彼女のデスクに広げた100枚程の平和だった頃の写真を見て落涙する)。これを機にして写真集制作の話も浮上。写真集のデザインを買って出たのは、フリッツ・ヘンルが雑誌 Harper's Bazaar で仕事をしていた時に尊敬していたアートディレクターのアレクセイ・ブロドヴィッチ (Alexey Brodovitch)。1945年に刊行されたアンドレ・ケルテスの傑作写真集『 DAY OF PARIS 』のデザインを手掛けた人物である。写真フリッツ・ヘンル、文章エリオット・ポール、構成アレクセイ・ブロドヴィッチ。このように役者も揃い、フリッツ・ヘンルが「我々の偉大な成果」と考える写真集『PARIS』は、1947年にシカゴの Ziff Davis 社から刊行された。
本の状態:写真家フリッツ・ヘンルのサイン入り。ジャケットに欠け、破れ、シワ、キズあり。本体のカバーに汚れあり。内部ページのレ・アールで撮影された女性のポートレイト写真にくっつき剥がれによる1㎝角程度のキズあり。その他は経年変化程度。
価格:¥66,000 (2020/4/24 UPDATED)