2015年 08月 02日
BUSHWICK / Danny Lyon |
子供の頃の記憶の中で「食べ物」が占める割合は多い。なんといっても食べ盛りでありながら、自由にならないことが大きな理由のひとつであろう。半ば忘れた頃に読み返し、最近再び目を通した向田邦子の『父の詫び状』も24篇の内、「食べ物」の思い出が登場しないくだりの少ないことに思い当たった。
さて、ブルックリン生まれの写真家 Danny Lyon の子供の頃の思い出のひとつは、ブルックリンにあったパン菓子屋のこと。ブルックリンに住む祖母の家からの車での帰り道、父親はいつも同じルートを通り、いつもイースタン・パークウェイ近くのある場所で車を止める。そしてパン菓子屋に駆け込み、一塊の出来立てのイタリアン・ブレッドを手に車に戻ってきたそうだ。それから45年。ダニー・ライオンは、ある撮影の時期にその頃を思い出し、いまや入口や壁面がグラフィティだらけで、かろうじてドアの上のサインでその存在がわかる思い出の閉店したパン屋をカメラに収めた。"Excelsior, Italian Pastry" 。
BUSHWICK / Danny Lyon
1996, France, 47 pages, 210 x 140 x 5
ダニー・ライオンが子供の頃に思いを馳せるきっかけとなった一連の写真撮影。
ある日、ニューヨークの地下鉄 L トレインで知り合った19歳のパナマからの移民の少年をきっかけに彼らが生活するブルックリン・ブッシュウィック地区での撮影。主にヘロインなど麻薬の売買で生計を立てている中米、カリブ海、南米からの移民の不良少年たち。刑務所行き、抗争による死など大都市の高度発展の余剰から生じるふるい落とされた余剰物。ダニー・ライオンの写真と併記された不良少年のひとり Carlos Ferreira とダニー・ライオンによるナレーション。意を得たりし副題 "Let Them Kill Themselves" 。ブロック塀を背にバッティングに興じる少年たちの連続写真が印象的な小ぶりの写真集。
本の状態:フラップ付きソフトカバー。カバーの縁部分に少しヤケあり。その他は経年変化程度で概ね良好。
価格:SOLD
by booksandthings
| 2015-08-02 12:00
| 写真集