2013年 03月 25日
THE ART OF GILBERT & GEORGE / Wolf Jahn |
以前、ロンドンのビスポーク・テイラーにスーツをオーダーした際に聞いた話だが、彼らの顧客の一人に大手銀行に勤めるホモセクシュアルの男性がいるとのことだった。その男性は勤務先には自分がホモセクシュアルであることを隠しているのだそうだ。彼は人一倍お洒落に気を使う人物だそうだが、目立ったお洒落は仕事柄できないようだった。そういった事情もあり、彼のオーダーするスーツのこだわりは目に付きにくいところにあった。それはどこかというと、トラウザースのディティールだった。一見して普通のトラウザーズのサイド・ポケットとバック・ポケットであるはずのものが敢えて機能しないように仕上げられている。どういうことかというと、ポケットの口を塞いでいるだけでなく、袋部分が用意されていない、まさにポケットの口部分の飾りだけを縫うようにオーダーするのだそうだ。袋部分があることによるほんのわずかな脹らみが、自身の腰やヒップのラインを台無しにするというのが理由だった。
英国在住のアーティスト、ギルバート&ジョージ (Gilbert & George) の画集のページを繰りながら、その話を思い出した。
THE ART OF GILBERT & GEORGE / Wolf Jahn
1989, London, 524 pages, 215 x 257 x 45
ステンドガラスのような四角の枠の組み合わせとカラフルなフォトコラージュで知られる現代アーティスト、ギルバート&ジョージの全体像を把握できる良書。
版型は小さめながら、524ページに406点の作品図版と各地で開催された展覧会の展示の模様が収録されている。初期の作品のひとつでもあるギルバートとジョージそれぞれが3つのオブジェを並べた作品『THREE WORKS - THREE WORKS』や自らを彫刻に見立てた代表作のひとつ『THE SINGING SCUPTURE』などから写真のコラージュ作品へと製作年代順に作品が紹介されている。過激なテーマも多く、カラフルでグラフィカルな側面が強調されているようにも見えるが、その内に秘めたある種の宗教画を見ているような印象を受ける。
アメリカのパーム・ビーチでの展覧会の時に、かなり年老いた紳士が杖をつきながらギルバート&ジョージ二人に近づき、「私はこの展覧会を楽しんでいるよ。どうしてだかあなた方に話しましょうか?」と声をかけた。二人が「どうしてですか?」と訊ねると、その紳士は「私をひどく怖がらせるからだよ。」と言った。
また、ボルチモアでは展覧会場から空港へ向うところに青年が近づいてきて図録にサインをお願いできないだろうかと二人に訊ねた。彼らはその図録にサインし、青年がすぐにその場を去るだろうと思ったが、その青年は「ちょっと話してもいいでしょうか?」と訊ね、「もちろん」とギルバート&ジョージが答えると青年は目に涙を浮かべ「私は、作品 “NAKED LOVE” の前に座わると非常に心地よさを感じました。」と、インタビュアーの「あなた方の作品への人々の反応は?」との質問に例を出して答えている。誰もがただ「あなたの作品を好き(like、love) です。」とは言わないそうだ。
まるでバロック期のイタリア人画家カラヴァッジョを思わせるエピソードだ。
本の状態:ギルバート&ジョージと著者両名のサイン入り。ジャケットの背部分が日焼けにより退色している。その他は経年変化程度で概ね良好。
価格:SOLD
by booksandthings
| 2013-03-25 12:00
| アート