2020年 02月 03日
JAPON JAPONAIS / Charles-Henri Favrod, Yoichi Midorikawa |
1959年にスイスの出版社から刊行されたフランス人ジャーナリスト Charles-Henri Favrod と日本人写真家緑川洋一の日本、日本人をテーマとした共著『JAPON JAPONAIS』には、上の “おちょろ舟” の女たちの写真が2枚収録されている。
“おちょろ舟”とは近世以降、瀬戸内海で風待ち・潮待ちのために停泊している北前船の乗組員を相手にする女たちを乗せた小舟のこと。昭和33年(1958年)の売春防止法の施行まで続いた遊里の文化のひとつだそうだ。緑川洋一は法律が施行される前年1957年に、広島県大崎上島の木江港で、この時代の中で消える運命にある瀬戸内海の情景を撮影したのである。その作品は、一人の “おちょろ舟” の女をめぐるストーリー性をもった組み写真だそうだが、その中から『JAPON JAPONAIS』のために2枚が選ばれたことになる。"おちょろ舟" の作品は、「色の魔術師・光の魔術師」とよばれる風景写真で有名な緑川洋一の憂いを含んだ人間の物語の出色と評されている。
1959, Lausanne, 100 pages, 222 x 282 x 15
「井の中のかわず大海をしらず」の諺に呼応するかのように配された瀬戸内海の風光明媚な景色、続いてその海で生活する漁村の人々、海女、おちょろ舟、虚無僧や駕籠かき、巡礼者、花魁、芸者、伝統行事、古典芸能、寺社仏閣、戦後の復興を象徴するかのように広島、繁華街、工場・工場労働者の写真。当時の日本の姿の中で、変化をとげた日本の姿よりも、無くなりつつある日本の姿に重点が置かれているような印象を受ける。破れ傘を差して村道を歩く老人(あるいは子供)の写真を最後のページに収録するなど、いくつかの意図が示されており、一般的な日本紹介の写真集とは趣が異なっている。
この緑川洋一と日本を含めアジア各国を旅した Charles-Henri Favrod との共著は、余白、図版のサイズ、見開きの写真の対称などのレイアウト、所々に綴じられた1/2 サイズのテキスト・ページ、故事・ことわざのカリグラフィーなどエディトリアル・デザインもまた魅力的だ。
本の状態:フランス装幀(カードボード+フレンチ・フラップ・ジャケット)。ジャケットの底部に擦れキズ、背部分上部に変色あり。前後見返しの僅かな黄シミあり。その他は経年変化程度。
価格:SOLD
by booksandthings
| 2020-02-03 12:00
| 写真集 日本